目次
※この記事は2024年10月に取材を行った上で執筆しております。
about特急ひのとり
半世紀以上前から近鉄と国鉄(JR)は名阪間において熾烈な競争を繰り広げてきました。東海道新幹線が開業するまでは近鉄が優勢でしたが、新幹線の開業によって立場は逆転。名阪特急は暗黒期を迎えますが、1980年代に入り国鉄が度重なる値上げを断行し、比較的安価でサービスも良い近鉄に乗客が戻ってきました。
近鉄は乗客の期待に応えるべく1988年に「アーバンライナー」をデビューさせ、以降は速さを求める乗客は新幹線を、時間が少しかかっても良いから安くて快適な移動がしたい乗客は近鉄を、という具合に、各々方向性が少し異なっています。
そんなわけでサービス重視の近鉄は2020年、次世代の名阪特急の看板車両をデビューさせます。バックシェルを採用した新幹線のグランクラスのような座席、揺れや音を抑える技術を惜しみなく投入したこの特急こそ、「ひのとり」というわけです。
今回は近鉄の培ってきた技術とサービスの結晶とも言える「ひのとり」の2種類の座席から、比較的リーズナブルかつ安定のサービスが受けられる「レギュラーシート」を紹介しようと思います。
「プレミアムシート」の紹介は別の記事でしていますのでぜひ御覧ください。
特急ひのとりの運行区間・停車駅
運行区間
基本的に運行区間は大阪難波~近鉄名古屋ですが、朝夕のみ大阪と奈良を結ぶ阪奈特急にも充当されます。
停車駅
名阪甲特急として都市間を最速で結ぶために途中の停車駅は、大阪市の数駅を除けば三重県の津駅のみの停車で、一部列車は大和八木駅にも停車します。
また、大阪発のひのとり621列車は、本来名阪乙特急(停車駅が多いタイプの名阪特急)のみ停車するはずの白子・近鉄四日市・桑名にも停車します。
車両編成
6両編成と8両編成の2種類がありますが、両端がプレミアムシート、プレミアムシートに挟まれたレギュラーシート、という全体的な構造は同一です。
1・6号車:プレミアムシート
2~5号車:レギュラーシート
(全車指定席)
1・8号車:プレミアムシート
2~7号車:レギュラーシート
(全車指定席)
使用車両
ひのとり専用の特急車両です。赤が目立つカラーリングに金の帯が巻かれています。上質な移動時間を提供するため、内装やサービスは新幹線以上の高水準です。
乗車に必要な運賃・料金は?
3種類の運賃・料金を支払う
近鉄特急に乗車する際に必要な「乗車券」「特急券」に加え、「ひのとり特別車両料金」が必要となります。
特別車両料金とは、JRでいうグリーン料金に相当するもので、近鉄特急の一般的な座席よりも上級な座席・サービスを利用する際に支払います。ひのとり以外では「しまかぜ」などがこれに該当します。
なお、ひのとりはレギュラーシート・プレミアムシート問わず特別車両料金を支払いますが、座席のクラスによって特別車両料金は異なります。
ただし、例えば大阪難波~近鉄名古屋間の乗車で、レギュラーシートとプレミアムシートの価格差は700円であり、全体の金額を考えればそれほど両者に金銭的な差があるわけではありません。
近鉄特急の料金体系についても解説していますのでぜひ御覧ください。
チケットは何を買えば良い?
3種類の運賃・料金が必要なひのとりですが、特急券と特別車両券(特別車両料金)は事実上一体となって発券されますので、必要な切符は実質2種類です。
乗車券は券売機で購入できますし、ICカードや近鉄の株主優待乗車券で代用も可能です。
また、乗車券の役割となる近鉄週末フリーパスと組み合わせると、比較的安価に近鉄沿線の移動が可能です。詳しくは、以下の記事を御覧ください。
特急券・特別車両券は主要駅の窓口や自動券売機、後述のインターネット予約で購入可能です。
チケットレス特急券でポイントがGETできる!
近鉄はインターネット上で特急券・特別車両券の購入が可能な「インターネット予約・発売サービス」を提供しています。
画面がそのまま特急券になりますので、駅の窓口に並ぶことなく、乗りたい列車の予約・購入が可能です。
購入には「会員登録して購入する」もしくは「会員登録せずに登録」を選択できますが、筆者のおすすめは「会員登録して購入」です。年会費不要ですので会員登録して損をするわけではありません。むしろ、乗車するたびに購入金額の10%がポイントとして付与されます。
ポイントは特急券・特別車両券の購入に充てることができ、頻繁に近鉄特急を利用される方にはとてもオトクなシステムとなっています。
会員登録をせずに購入した場合、ポイントは付与されませんので、ご注意を。
支払い方法はクレジットカードですが、会員登録すると「積立金カード」が利用可能になり、プリペイドカードのように事前に入金しておけばクレジットカードを持っていなくてもチケットレス特急券を購入できます。
より上級な座席「プレミアムシート」と何が違う?
ひのとりの「プレミアムシート」と、「レギュラーシート」は何が違うのでしょうか?
共通の設備も含めて表にしてみました。
座席の設備ははっきり言ってプレミアムシートが格段に上ですが、表をみて分かる通り、レギュラーシートでも特急として基本的な設備がすべて整っています。
あくまで、「プレミアムシートがおかしいぐらい豪華」なのであって、「レギュラーシートでも充分満足」というわけです。
レギュラーシートと名乗りながら特別車両料金を支払う必要があるのは、近鉄のレギュラーシートの中でも最上級の設備を備えているからに他ならないでしょう。
利用シーンに適した座席がありますから、どちらがおすすめ、というのは一概には言えないです。ですがどちらにも手を伸ばしやすい価格設定なのは嬉しいですね。
車内紹介
- ポリシーは記事下部に記載しています。
- 複数回にわたって取材を行っています。
- 記載の情報は2024年10月時点のものです。
禁煙・Wi-Fiに関する情報
全席禁煙・喫煙室なし
喫煙室は2024年3月で閉鎖され、座席での喫煙はもちろんできません。列車内では一切喫煙が不可能になりました。
Free Wi-Fiあり
Free Wi-Fiが利用可能です。
レギュラーシート(6両編成:2~5号車・8両編成:2~7号車)紹介
車内全景
近鉄特急のレギュラーシートでは一般的な4列の配置です。
座席
近鉄特急は形式ごとに座席の構造やデザインが異なっていることが多いですが、特にひのとりのレギュラーシートは近鉄の他のレギュラーシートと比較しても異彩を放っています。
バックシェルを採用した都合なのか、座席の機能や構造は全く異なります。
コンセント
令和では標準ですがコンセントが全席に設置されています。
リクライニング(バックシェル付・ゆりかご式)
リクライニング角度は充分に満足できる水準です。
この座席のリクライニング機構の特徴は2つ。「ゆりかご式リクライニング」であることと、「バックシェル」が採用されていることです。
まずはゆりかご式リクライニングから。
近鉄名阪特急ではアーバンライナーNextなどに導入されている機構です。
リクライニングが動作すると背もたれが倒れますが、それと同時に座面がスライドします。JRなどにも採用されていますね。割と歴史がある機構です。画像を見てもらえばおわかりになると思いますが、リクライニング倒せば座面が前に出てきます。
これがあるのと無いのとでは快適性も違いますし倒れている感覚も増えます。
続いてバックシェル。直訳で後ろの貝殻ですが、要はあらかじめリクライニング最大角度に板を付けておき、リクライニングを目一杯倒しても後ろの人に何ら迷惑がかからないようにした機構です。
バックシェルがあるのは近鉄でひのとりだけ、全国的に見ても鉄道座席のバックシェル(若しくはそれと同じ働きをする設備をもつ機能)の採用事例*1は指折りです。
しかも近鉄は所謂上級座席にバックシェルを設置するのではなく、あくまでレギュラーシートにこれを設置するのですから驚きです。
ひのとりのレギュラーシートは特別車両料金が別に必要ですが、このような座席を見ると払っても良いか、となります。
テーブル
背面テーブル
背面テーブルが設置されています。仕事をしたり、食事をしたり、活用方法は様々です。このテーブル、何故かはわかりませんが分厚いです。
テーブルの分厚さで言えばJR四国の2000系といい勝負です。
そして座席の間隔が通常のレギュラーシートよりも広く取られているため、テーブルを手前に引き出すことが可能です。この機構はJRではグリーン車に搭載されているものなので、ここでも追加料金を支払った対価が感じ取れます。
参考までに、上の写真にうつっているパソコンは13インチ級です。
最前列は前に座席がないので細長いテーブルを使います。
ミニテーブル(肘掛けに格納)
ミニテーブルには特急券やペットボトル・缶などが置いておけます。
テーブルは併用可能
背面テーブルとミニテーブルは併用が可能です。
ミニテーブル→背面テーブルの順に展開するとスムーズです。
ドリンクホルダー
ドリンクホルダーです。特筆することはありません。
背面ポケット
雑誌や新聞などを入れておけるポケットが設置されています。
乗車時にはリーフレットが入っていました。
フック
座席の背面や窓のそばにフックが設置されています。小さめのカバンやお土産などを掛けておけます。
フットレスト(足置き)
フットレストです。近鉄のフットレストは靴を脱いで使用できます。
これは全国統一のルールですが、使用する面に座席と同じ柄の布がフットレストに張られていたら靴を脱いで使用しましょう。
そしてひのとりレギュラーシートのフットレストは靴を脱いで使う面しか用意されていません。
筆者はフットレストを使うメリットは足の開放感を得るためだと思っている人なので、そこまでダメージはありませんが、他の近鉄特急のフットレスト搭載車両は靴を脱がずに使用できる面も利用できますので、そのあたりは機能として微妙です。
アームレスト(肘掛け)
座席間のアームレストに関しては跳ね上げが可能です。近鉄は座席間のアームレストをご丁寧に2つ用意しています。
枕カバー
枕はありませんが、後頭部にグレーの布がかけられています。そして金のエンブレムが描かれています。最近は近鉄JR問わず布製の枕カバーが増えましたね。
窓
窓は座席ごとに仕切られています。
高さはあって景色は楽しめますが、ひと世代前の横長の窓のほうが個人的には余計な柱がない分景色が見やすかったように思います。
カーテン
カーテンは上から引き下ろすタイプです。
送風口
高速バスみたいな設備ですが座席真上、棚の裏に送風口があります。2つ用意されているのでおそらく窓側用と通路側用で使い分けできるのだと思われます。
棚
座席上部の棚には少し大きめの荷物も置いておけます。
棚の部分はスケルトンになっていて、忘れ物しにくいですね。
座席番号
座席番号は棚の裏面に記載されています。
全席指定席ですので、手元の特急券と照らし合わせて間違いのないように座りましょう。
情報表示液晶・トイレランプ
停車駅などの情報を表示する液晶と、トイレの使用状況がわかるランプが客室端に設置されています。
座席からトイレの空き具合がわかるのはありがたいですね。
特急ひのとりのその他設備(レギュラーシート・プレミアムシート共通)
カフェスポット
ひのとりにはアテンダントの乗務やワゴン販売などはありませんので、移動中に小腹が空いたり喉が乾いたりしたらプレミアムシートへの入口付近に設置のカフェスポットを利用する形になります。両替機も設置されています。
また、ひのとり関連グッズも自動販売機で販売されています。
自動販売機(3号車)
今回筆者は利用しませんでしたが、3号車にノーマルの自動販売機もあるようです。
ベンチスペース
座席も十分快適ですが、ベンチもあります。気分転換には十分です。
ロッカー
ロッカーは鍵施錠式とICカード施錠式の2種類設置されています。大きな荷物はここに入れましょう。
単なる荷物置き場だけではなく、施錠ができるロッカーもあるのが嬉しいですね(一応ノーマルの荷物置き場も用意されています)。
トイレ
もちろんトイレが設置されています。写真のトイレの他にも男性専用トイレや女性専用トイレなど、いくつかのタイプがあります。
洗面台・おしぼり
洗面台は生活感あふれるものです。
洗面台の横で近鉄特急伝統のおしぼりがゲットできます。1人1つまでです。
ごみ箱
ごみはごみ箱に捨てましょう。
防犯カメラ
防犯カメラが車内に設置されています。
特急ひのとりレギュラーシートのまとめ・乗車した感想
今回は近鉄「ひのとり」のレギュラーシートを中心に紹介しました。
近鉄のレギュラーシートの中ではもちろんダントツで快適性が良いひのとりのレギュラーシートですが、巷ではプレミアムシートに話題をさらわれがちです。
もちろんプレミアムシートの快適性は言うまでも無いですし、実際私鉄特急の設備としてはありえないほど豪華なのは事実です。
しかしながらレギュラーシートも座席間隔はJRのグリーン車並み、バックシェル採用のゆりかご式リクライニング、Wi-FIやコンセント、カフェスポットも利用可能です。
こうして記事を書いていると、記事中で何度も触れていますが、レギュラーシートでもJRで最近流行っている4列グリーン車に肉薄する「設備」を兼ね備えているといえます。もちろん大きな枕や読書灯はありませんが、特別車両料金を支払う価値は充分にあると感じました。
筆者は小学生の頃、大阪上本町にある塾に通っていたのですが、ちょうどひのとりのデビュー直前ということで、ひのとりのブースが駅構内にありました。プレミアムシートに座ることもできたようです。いつも朝と夜に駅を使っていたので結局体験することなく、初めての乗車は2022年のGWでした。
それから数度乗車しましたが、やはりいつ見ても飽きのこないデザインと、劣化することのないサービスと設備で出迎えてくれました。
デビューから早4年、筆者もデビュー当時は中学1年生でしたが今や高校2年生です。近鉄は割と車両を永く使いますから、今後数十年は活躍するのだと思われます。
いまは豪華絢爛に感じる設備も、いつかは他に見劣りするときが来るのでしょう。しかし間違いなくひのとりは近鉄が生み出した令和最初の傑作と言えると思います。
機会があれば一度だけでも乗車してみてはいかがでしょうか。
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https://www.kintetsu.co.jp/senden/hinotori/imgs/pdf/leaflet.pdf
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